母のクリニック

昨日、3か月に一度の、母の定期検診でクリニックに付き添った。このクリニックにお世話になって、もう8年が過ぎ、9年目。母の状態は、最初は山谷があったが、今は、すっかりいい調子に落ち着いて、ここ数年進行もあまりなく、毎日の生活を、楽しんでいる。普通に誰とでも会話し、気遣いのある受け答えもできるので、アルツハイマー型認知症だとは、あまりわからない。

この頃は、とくに、同じことを何度も聞き返すこともなくなって、安心していられるようで、こちらも、特別扱いせずにすみ、一緒にいて楽しい時間が持てるようになった。

クリニックの先生も、母の顔をみて、「ああいい笑顔だから、調子よさそうだね。」と言われた。「いつもニコニコ居られるのが一番だよ。」と。私が、「悩みがなくていいね。」と母に言うと、先生は、「いやいや、悩みは、だれだって、それなりにあるんだよ。」と真顔で言われた。そうだ、確かに、なんでもすぐ忘れてしまうからと言って、悩みがないわけじゃない。私の、軽い発言が、浅はかだったなと、ちょっと母に、申し訳ない気持ちになった。同時に、ちゃんと、母を、人として、大事に扱ってくださっている先生の姿勢にも、感心した。

人を、人として、大切に扱う。人間の尊厳を守り、共に生きる。

私たちがラボラトリー体験学習の学びの場で、日ごろ目指してる、大事なところ。こういう何気ない会話にも出るんだなとハッとした。

3か月に一度、母をクリニックに連れて行って、先生と会って経過を話すのは、楽しみだ。一番最初、2010年の年末に、不安な気持ちで門を叩いたときも、やさしい笑顔で迎えてくださって、丁寧に検査の結果を伝えながら、ひとつひとつの質問にも答えてくださった。すっかり遅くなり、最後に病院を後にするときに、待合室の薪ストーブで焼いた焼き芋を分けてくださったことを、今も覚えている。

いつ行っても、どんなに忙しくても、ちゃんと家族の話を聴いてくださるし、家族と患者がいい関係でいられるようなアドバイスを下さるのはありがたい。信頼できる先生に巡り合えて、母も私たち家族も、幸せだなと思う。

帰りに車を運転しながら、「どうしてお母さんは免許を取らなかったの?自分で運転してみたくなかった?」というと、「事故が怖いから無理。お父さんにもやめておけって言われたし。」と。でも、もしも、頑張って自分で運転してどこでも自由に自分で行けたら、きっと母の人生もほんの少し、違ったかもしれないな。なんてふと、考えてしまうのでした。