1月の例会

1月30日(土)3ヶ月ぶりの例会を開催しました。

読み進めている文献「ネガティブケイパビリティ〜答えの出ない事態に耐える力〜」から5章・6章・7章を取り上げました。

5章は、著者が開業している診療所のさまざまな事例を通して、受診者に対する姿勢が紹介されています。「心身のよろず相談引き受けます」という診療所の看板が物語るように、どの事例もその人の困りごとや不安を共に悩みながら一緒に受け止めるのです。身の上相談抜きには診療は成り立たない・・・。「困りましたね・・・」「大変ですね・・・」と聞き続ける姿勢なんだそうです。主治医として、間に合わせの解決はしない。じっと耐え続ける中で、毎回毎回その人が口にする言葉を味わい尽くすのだと。その人なりの個性があり一人ひとりを取り巻く環境も違っているからと・・。
あなたの苦労は私がちゃんと知っているからね・・という主治医の存在は大きい。それがあれば案外人は耐え続けられそうです。
だからこそ、答えを早急に出そうとはせず、宙ぶらりんの状態をそのまま保持して、じっと耐え続けていく姿勢=ネガティブケイパビリティが診療の場で大切なんだ、というメッセージが読み取れます。

加えて著者の臨床の姿勢に影響したのが「トリートメント」という言葉の意味です。一般に医学用語で使われる「治療、治す」ではなく、傷んだ髪をケアして、それ以上傷まないようにしてあげるトリートメント効果なのだと。
どうにもならない患者さんが来た時は、このトリートメントをすればいい。治そうとするのではなく、傷んだ心をちょっとだけケアしてあげればいい。いつか希望の光が差してくることを願って、患者さんに「めげないように」と声をかけ続ければよいのだと述べています。
医療設備が十分でなかった2005年の訪問先インドネシアの精神病院での体験からの気づきなのだそうです。治せないかもしれないが我々にはトリートメントならできる・・。現地の精神科教授がそう語った言葉に目からウロコ、衝撃を受けたそうです。

6章は、脳についての解説です。私たちの脳は色々なことを知りたがり意味付けをする時、物事をポジティブに考えるようにできているそうです。そうやって人は明るい未来を想像することで、困難を生き延びてきたとのこと。

そして希望する脳を最大限利用してネガティブケイパビリティを発揮しているのが、伝統治療師(メディシンマン)。現代の精神療法にも通じる治療者と捉えそれらの基本的態度を紹介しています。
精神療法家はメディシンマンの後継者だという著者の論点は興味深いところです。

何もできそうもない所でも、何かをしていれば何とかなる。何もしなくても、持ちこたえていけば何とかなる。
Stay and Watch.逃げ出さず、踏みとどまって、見届けてやる。
著者はこの精神を「終診」という短編で描いているそうです。
6章の後半では、プラゼボ効果についての活用にも触れています。

7章は、創造行為にはネガティブケイパビリティが介在しているという内容です。芸術家に多いとされる様々な精神的問題(アルコール・薬物依存・躁病・不安障害・適応障害・自殺企画等)は、一方で創造行為が症状を軽減したり、その人の創作性を高めていることが、1990年代の調査の事例から紹介されています。
この章でも再び詩人キーツが登場しますが、創作行為には性急な結論づけは自戒すると警告しています。宙ぶらりんの状態で驚きをもって身を任せ、終始とらわれない心眼を開いておくことだと・・・。また著者は作家でもあり精神科医ですが、どちらの職業も一つに融合しているそうです。患者さんへの接し方も自分が作り出した登場人物への接し方も、どちらもネガティブケイパビリティ=何事も決められない、宙ぶらりんの状態に耐える過程で、患者さんは自分の道を見つけ、登場人物も自ずと生きる道を見つけて小説が完結させてくれると語っています。

説明が長くなってしましましたが、文献購読はここまでです。次回は4月、第8章〜第10章で読み終えます。

例会後半は事務連絡として、2021年度(4月〜3月まで)の年間計画について話し合いました。
例会は3ヶ月に1回、次回は4月の予定です。