10月の例会

10/16 に定例会を行いました。
7月から読み始めている文献「傾聴の心理学」(PCAを学ぶ)坂中正義編著、後半の4章から6章&エピローグを読み進めました。今月で完結です。長くなりますがご一読ください。

4章は、PCAの実践として重要なプログラムであるエンカウンター・グループEGについて、理解を深める内容です。
1970年にロジャーズが出版した「エンカウンター・グループ」の記述にも触れつつ、この章の担当著者、坂中氏による今日のエンカウンター・グループについて、大変わかりやすく丁寧に解説されています。

エンカウンター・グループの定義について、ここでは「自己理解や他者理解を深めるという個人の心理的成長を目的として、パーソンセンタード・アプローチの基本的視座を持つ1〜2人のファシリテーターと10人前後のメンバーが、集中的な時間の中で各人が自発的・創造的に相互作用を重ねつつ、安全・信頼の雰囲気を形成し、そこで起こる関係を体験しながら、率直に語りあい聴き会うことを中心に展開するグループ経験である」と紹介されています。

「出会い」を意味する「エンカウンター」。そのグループ体験は、どれも唯一無二の体験です。そのグループ体験の鍵を握るのは、そこに集まったメンバーが創るものですが、PCAの基本的視座を持つファシリテーターの存在がとても重要であることがわかります。グループから自発的に生み出されるものを大切にする姿勢、これはEGに限らず、グループを扱うアプローチでは重要なところです。その中で、私が特に印象に残った記述に「グループの重心」を意識するというものがあります。
グループでは、セッションが進行していく中でさまざまなことが展開していきます。話題・人物・雰囲気はどうか、そして特にグループの陰になっている事・もの・人はどうか、というところにも目を向けることが求められます。発言している人もいれば、そうでない人もいる・・・それぞれの思いがこの場にあるということ。目に見えないけれど確かにそこにある、感じられる「グループの重心」に意識を向けるセンスか・・・と、気づかされました。

また、事例モデルとして「テツロウさんのEG体験」というのが紹介されていて、これも私は興味深く、共感しながら読み進めた箇所です。
鉄道ファン、鉄ちゃん?と(勝手に)想像しながら、テツロウさんの心の声をきき、セッションが進んでいきます。自分もこのグループに参加しているような気持ちにもなり、実際にグループが段々と機能していくところも興味深く感じました。
けれども、これはあくまで間接的な情報であること、EGを知るには、先ず実際に参加していただきたいという、著者からの忠告があったことも忘れてはいけません。

EGの効果は、定義の文脈にあるように「自己理解や他者への理解・尊重・受容の深まり」などが各方面で実証研究されています。EGが1960年代に始まったアメリカの人間性回復運動と共に発展してきていますが、現代社会においても、人間性回復のためにEGが果たす意義は大きいと述べておられるのも印象的です。6章のテーマ「私たちがどのようにまなぶか」それにも通じるものがあります。

エンカウンター・グループの体験では・・・
「心の片付け」の場
「心の声に耳を傾ける時間」
「自分な何者か、いきている意味」の確認や探求
「人の話を正確にきく力」を育む
EGは「ゆっくり生きる・小さく生きること」を援助もの
EG のゆっくりした展開は「ゆっくり丁寧に生きる知恵」という社会的意味があるといえるでしょう。    (本文P142からの抜粋です)

次に5章は、社会的な広がりを見せるPCAのさまざまな領域での実践について紹介しています(著者は松本剛氏)。

子どもや家族へのアプローチでは、ゴードン・メソッドの「親教育プログラム=親業」「教師学」、アクスラインの「子ども中心のセラピー」があります。
組織へのアプローチでは、働きやすい環境づくりのグループアプローチ、産業カウンセリング、職場内のミーティングや職場の人間関係の改善などに貢献しています。
医療・福祉領域へのアプローチでは、患者や家族へのサポートグループ、チーム医療、緩和ケア、保育やソーシャルワークの療育などに、EGのエッセンスが活用されています。
コミュニティへのアプローチでは、EGを用いた居場所づくりの実践、PCAを意識したセルフヘルプグループの存在意味も大きいようです。そのほか、多文化理解、国際平和へのアプローチ、スピリチャリティ、ファシリテーター研修グループなど多岐にわたる分野でも行われています。

6章&エピローグは、再び編者坂中正義氏の執筆です。PCAを学ぶうえで特に初学者に心がけてほしいことがまとめられています。大切なのは「なにをまなぶのか、ではなく、いかにまなぶか」という視点です。
この中では「自身との対話という姿勢をおぼろげながらでもみにつけること」で「なんとなくこんな感じのことかな、ではじめ、そこを手がかりに対話を心がけ、試行錯誤していけば自身との対話も質も深まっていく」のです。

PCAを学ぶ学習プログラムには「理論学習」「体験学習」「実習」があり、自分との対話の姿勢を大事にしながら、具体的には例えば、ロールプレイを用いた傾聴トレーニングなどでは、是非逐語録の作成を!と述べておられます。
事例検討・スーパービジョンなどでも自分の面接を繰り返し聞き、文字化していくプロセスに意味があると。この姿勢は自分と向き合うことから学ぶ丁寧な姿勢と言えます。

ここで大切なのが「学ぶプロセスを意識する」という概念です。日本独特の師弟関係の学習プロセスをヒントにPCAの学びのプロセスに関連づけているのは興味深いところです。
キーワードは、「守」=師に指導を受けながら型をまなぶ段階。型を守りつつ改善し、模索する段階=「破」。そして自分らしいものを想像していく段階、型(師)を離れていく段階=「離」が登場します。

PCAの学習に当てはめると、まずは体験・学習すること。それは枠組にのってみることだそうです。PCAで大切にしていることを肌で感じる機会になるし、基本的な理論学習の実践もしかり。個性やオリジナリティーは何もないところから立ち上がるのではなく、「型」から入り、つまり体験や学習をすることを通して、「その人らしさ」のベースとして機能していくのです。

「破」の段階になると、上手くいくこともあれば揺り戻し時期も経験ながら、自己対話を意識しつつ、基本は「型」にのって実践を重ねていく姿勢です。地道な努力が力をつけていくということでしょうか。自分らしい実践への模索=『離」の段階に入っても、この領域の実践は一生修業なのだそうです。エンドレスなのですね・・・。
そして学びの促進には「仲間やつながりを持つ」ことも大切な要素ということで、学び続けるプロセスで、仲間と支え合っていくことは、新たな気づきでもあり大きな力になりますね。仲間の存在があれば実践し続けれそうです。

ここで本文は終わっていますが、エピローグに続きます。この著書の出版に至った坂中氏ご自身の想いが語られています。これまでの実践や研究はご自身の人生だったという気づき、そのことを大切にしていきたいと思われたこと、そしてPCAをきちんと世に伝えていこう、ご自分がこれまで学んできたことを言葉に残すようなPCAのテキストを書きたいと思われたのだそうです。坂中氏の歩まれたプロセスにはいつも素晴らしいお仲間がおられたことが想像できます。しっかりとした関係の中で、この著書も世に生み出されたのですね。

「傾聴の心理学 PCA を学ぶ」坂中正義編著
7月と10月の例会に文献として、Seedsで読み進めることができたことを大変光栄に思います。定例会でも話題になりましたが、この報告をまとめながらあらためてこの本に出会えてよかった、ありがとうございますと心から御礼を申し上げたいと思います。

議事では、11月に企画している自主企画の開催の内容についてと、次の文献について話し合いました。