子離れ
大学2年生の息子が、秋から一人暮らしを始めた。家から大学までは1時間強かかるが、十分に通学圏内である。とはいえ、体育会に入っているので朝練があり、毎朝6:00には家を出ていた。少々大変だなと思ってはいた。そのうち、1年生の秋ごろから一人暮らしをすると言い出し、わたしは別に「賛成するわけでも、反対するわけでもなく、ご自由に、」という形で聞いていた。そのころから一生懸命バイトをしてそこそお金をためて、自分なりに準備を始めていたようだ。「就職して初めて一人暮らしをするより、そうした経験があったほうが自分としてはいいような気がする」という理由を聞いて、わたしも「まあ、そうだな」と思った。部活の先輩や仲間の家にしょっちゅう泊まりに行っていたので、家を出てもさほど、いなくなった感じはない。父親と家探しをして、あっという間に準備を整えて、ひっこしした。家を探し始めてから2週間のことだった。
自分としては、彼が自立していったことを少しさみしいけど、自然に離れていったことは、うまく子育てできたという証だと自分で自分に言い聞かせるように考えていた。
ある日、隣のお宅のお孫さんの声がした。庭にでて、お母さんを探しているようだった。
「ママ、ママー、ママはどこ―?」
わたしは、その時、急に目の奥が熱くなった。そんな風に呼んでくれた時もあったなと思った。まだいまだにそんな風に思われていたらそれは大変なことだけど、なんだか急にさみしかった。何事もない風に、忙しい日常を過ごし、忙しさに紛らして閉めていた心のドアを急にノックされたような気分だった。世の中の多くの親が体験していることで、さみしいなと思うほどのことでもないと思いたかったのかもしれないと、ふと思った。ただ、うちの場合は、家を出てから、最低限の用事がすんだら、まったく音信不通である。合鍵もくれなかった。それを考えると、一方でわたしは何だったの?とも思ったり・・・。複雑な心境である。
寒くなってきたので、衣類を取りに帰ってくるであろう。その時、息子の顔を見てもあまのじゃくなわたしは、特段うれしそうな顔はしないと思う。でも、実は今、その日を心待ちにしているのである。